岡野栄子さん

岡野栄子さん 1946年東京生まれ。1966年文教大学短期大学部卒業。1978~90年まで野原チャック氏にパッチワークキルトを師事。その後フリーでキルト工房「バスケット」主宰。1983年アメリカンアンティークキルト展出品。1986年日本のキルトの幕開け展出品。以降展示会に作品多数出品。1996年『岡野栄子のキルトエッセイ』(日本ヴォーグ社)出版。その他著書多数。また、オリジナル作品を多数雑誌に発表している。

岡野さんのキルトを前にすると、そのあふれんばかりの色の洪水と、形や線の自由闊達さに飲み込まれそうになる。布と糸で描いた油絵、そんな印象を持つ。直感で大胆にはさみを入れた形は、二度と同じものは生まれない。輪郭を取る刺しゅうは、思いのままにあちこちを走り回る。 その一瞬に感覚を凝縮させ、尋常ならざる世界に自分を持っていき、エネルギーを噴出させる。まるでマラソンランナーか苦痛の末に到達するマラソンハイの状態だと、岡野さんは言う。「おいしいシリーズ」のテーマ性や、「おもしろキルト」のボタン使いなど、常にアイデアあふれる独自のキルトを発表してきた岡野さんに、創作の秘密を聞いてみた。 「私の作り方って、三つか四つの作品を同時進行させるんですよ。ミシンやキルト台のあるアトリエではどっしり座ってやる作業ですし、家では手元でできるピーシングなど。やることが場所によって違うと気分転換になって、能率が良くなるんです。いつもいつも作りたいものがあるので、トップができてしまうと、頭の中は次の作品に飛んでいきます。かといって、キルティングがつまらないというわけではなく、それはそれで楽しいのですが…」。キルトを作っていて、突然何かが見えた時は、身体中をアドレナリンが駆け巡り、時間も止まるし食べることも眠ることも忘れてしまう。この、狂気に近づく一瞬に自分を持って行き、一気に勢いに乗る。 ―本文より一部抜粋― キルトジャパン2000年11月号より
  • 今や創作になくてはならないボタンの使い始めは、貝ボタンの美しさに魅かれて、キルティング代わりにしたボタン止め。かなりいたずら好きでキュートな岡野さんと、ボタンの存在は似ていて、相性がいい。アンティークのもの、現代のもの、イギリスやフランスなど旅先で求めたものなど、アトリエにはボタンがさまざま。
  • アトリエのところどころにコレクションや愛らしい小ものがたくさん。小さなミニ額は、お嬢さんの手描きの、岡野さんへの賞状。ひたすらキルト創作に人生をかけてきた母への、尊敬の念と激励の優しさがあふれている。
  • 「読むキルト」の一作目となった1985年作の「娘の日記より―きょう、わたしは……」。娘、直子さんの幼少の日記をキルトに。左は日頃、書き溜めておいた文章が、キルトの中に書き写されていく。
  • 『本日はお日柄も良く―Vol.4』 200×150cm
    ウエディングキルトの課題に応えて作り始めたシリーズ4作目。5つのパーツで構成しながら着物の形にしたタペストリーは、それぞれのキルティングを終えた段階でこの形にまとめられる。着物として、視覚的にバランス良く映るサイズや形を生み出すのに苦心。この作品では、初めてプリントオーガンジーを使用。重ね合わせて生まれる新たな色は、まさにキャンバスに絵具を混ぜ合わせているような感覚で、発見が多くあったと語る。