会場は日本ヴォーグ社のギャラリー。
足を踏み入れた瞬間、そこにはもう若山ワールドが広がっていました。
ひと目で全体の美しさに惹かれ、近づけば近づくほどステッチや布使いに目が留まります。本に手を加えてオブジェにしたアートブックや、窓辺の小さな花、木々の枝ぶりまで丁寧に作り込まれていて、作品を前にすると、なかなか先へ進めません。


見るというより、作品から話しかけられているような展示でした。
針目のひとつひとつに、作り手の時間が縫い込まれているように感じます。布選びに迷った日、ほどいてやり直した夜、あと少し進めたくて灯りの下に座った時間。そんな日々まで作品の中に残っている気がしました。
先生ご自身の作品が素晴らしいのはもちろん、生徒さんたちの作品もまた実に魅力的でした。それぞれに個性があり、丁寧で、誇らしげで、この教室で過ごしてきた時間の豊かさが伝わってきます。
技術だけではなく、人と人との関係まで育ててこられた先生なのだろうと思いました。


今回、強く感じたのは、若山先生のあたたかなお人柄です。
印象的だったのは、海外のご友人たちから寄せられた作品でした。チェンマイ、スペイン、シンガポール、ポルトガル――遠く離れた場所から届いた布の便り。それは単なる友情の証というより、若山先生がこれまでどれほど多くの人に愛され、信頼されてきたかを静かに物語っていました。

やさしい人のまわりには、やさしい人が集まる。その当たり前のことを、会場全体が教えてくれるようでした。
普段、一人でミシンに向かうことの多い身としては、こうして教室で学び、生徒同士が心を通わせ、展示会というかたちで発表する世界が少しうらやましくもあります。誰かと喜びを分け合う楽しさも、また素敵だと思いました。
手づくりは、上手い下手だけでは語れません。
作品になること。誰かとの思い出になること。教室という居場所になること。遠くの友達とつながる手紙になること。自分の心を整える静かな時間になること。そんなたくさんの意味を持っています。
今は安くて便利なものが簡単に手に入る時代です。だからこそ、時間をかけて作ること、人のぬくもりが残るものに触れることには、大きな価値があるのだと思います。完成品だけを見るのではなく、そこに至る物語まで味わうこと。それが幸せな気持ちにつながるのだと思いました。
会場となった日本ヴォーグ社のギャラリーは、貸し出しもされているそうです。
いつか作品展をしてみたい。そんな気持ちが少しでもあるなら、その一歩は先生だけのものではありません。私にも、あなたにもできることなのだと思います。
一人でもいい。仲間と一緒でもいい。
作りためた作品を並べ、自分らしい世界観を誰かに見てもらう。そんな楽しみ方まで含めて、手づくりなのだと、この展示会がそっと教えてくれました。



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