くろだあつこさん
北海道生まれ。油絵を学ぶ。千葉から信州・鬼無里へ移り住んで12年目になる。キルト小屋美術館兼住まいは、ご主人と二人で建てた。ズッキーニやブルーベリーを始め、自給の野菜や森の山菜、きのこ、木の実を中心とした食生活で、自然の恵みをありがたく享受しながら、キルト作りを愉しんでいる。キルトの素材は着古したジーパンをはじめ、古着の再利用をモットーとしている。
信州の山里にキルト小屋美術館を手作りで建て、衣食住の生活のすべてをいっしょに実践してみるというユニークな生活塾を主宰するくろださん。素材にお金をかけず、あくまで暮らしに密着したキルト作りに励んでいる。
遠く北アルプスが見渡せる標高千メートルの山里、鬼無里に、三角屋根の木造のキルト小屋美術館兼住まいがあった。大きな木の納屋とでも呼べそうな建物は、ご主人と二人で足掛け六年半かけて、すべて手作りしたものだ。このシンプルで簡素で素朴な建物は、くろださんがキルトの大作を飾れる美術館を作りたいという夢を、汗と知恵と根気で実現したものである。「何しろお金をかけずにあるものを再利用するというのが私の生活信条ですから、家を建てるのもそうだし、キルト作りも同じです。土間にしたのも、その分板を張らなくて済むじゃないですか。壁も床も木の板張りにしたのは、手間の省略とキルトが映えると思ったから。コンクリートの打ちっぱなしならず、板の張りっぱなしかな」
素材も、一度使われ不要になった古布を再生するという方針は不変である。それぞれ来歴を持った布たちに、新たな生命を吹き込む作業は、地に足をつけた暮らしぶりと道筋を一つにしている。古い布の、使いこまれ、何度も洗われ、日に晒された色合いは、何とも言えない親しみ深さがある。今あふれているプリント柄にはない味わいであり、キルトにして生活のどんな場面に置いても、すんなり馴染んでくれる。ずっと前からそこにあったような、不思議な安堵感があるのだ。
好きと嫌いがはっきりしている。何が好きと聞かれると、第一がキルト。それにすっぱい木の実に、森や畑の生き物に、料理に…。額に汗して畑を耕し、森に入って山菜やきのこを採り、季節の巡りに逆らわず旬の恵みをいただきながら、営々とつつましく暮らしていく。そんな暮らしにこそ心の底からの喜びと満足感、何より安定を感じている。
元気に、百歳までキルトを縫うというくろださん。信州の大地が自分の師という暮らしを続けている。
―本文より一部抜粋― キルトジャパン2005年11月号より
- 2階で仕事する場所は、階段を上がったすぐの広い廊下にあり、人の気配がすぐに分かる。作業台はガラスの入ったドアの机を真ん中に置き、毎日ちくちくと手を動かす。
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『カラス』1992年制作 161×161cm
実家の前が寺でカラスがわんさかいて、いつもじーっと見ていた。なんとか卵を見つけ、烏骨鶏に抱かせたいと思っている今日この頃のくろださん。カラスの飛ぶ姿を微笑ましく観察し、四角と三角つなぎで描いた作品である。 -
『80匹の猫』2005年制作 350×400cm
母猫のこむぎ、その子のほたる、つらら、くるみがモデルとなり、四角と三角つなぎだけで猫の様々な表情を表現した作品である。着古したジーパンやチノパンツの素材が数え切れないほど使われている。 - 整理され、きれいに並んだ絣とジーパン。色探しが始まるとぐちゃぐちゃになるそうだ。タンスは舞台の大道具用に作られたものを手に入れたとか。