(34)きっかけ、のようなもの
2021/04/07 00:00
夫と出会った頃、高校時代に「このまま死んでもいい」と思うほど感動した美術展の話を聞きました。彼が憧れて、ずっと見たかったサルバドール・ダリの回顧展。最高に満たされた空間で大の字になってバタンと倒れるイメージなのでしょう。斜め上にグンと腕を広げるジェスチャーつきで、無邪気な笑顔を私に見せました。 結婚して子どもが育ち、夏のスペイン家族旅行を計画しました。観光スポットは目白押しだし、夫はもうかつてほどダリには執着していない。絶対に外せないわけではないのだけれど…フィゲラスのダリ美術館は必ず行こう、と私は念を押しました。 ダリ美術館一階の床には、ダリ自身の棺が眠っています。赤い床には棺の位置に印があり、来館者はそこに寝転んで彼を偲んだり写真を撮ったりします。夫と息子もそれぞれ、大の字になって寝転びます。夫はもう憧れや空想に夢中になったりはしないけど、それは生きて変化し続けているから。だけどあのダリの話を聞いていなければ、私はこの人と一緒にはならなかっただろうと思いながらカメラのシャッターを切ったのでした。
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