郡司祥子さん

郡司祥子さん 奈良県出身。京都教育大学・特美西洋画卒。グラフィックデザイナーとしてメーカー勤務。1970年来古布蒐集。1983年N.Y現代キルト展に出合い古布を使ったキルト作りを始める。1986年アトリエ祥子喜留図を開く。1988年「曼荼羅」高野山・東寺・チベット・ブータン・海、「生命樹」「鳥曼荼羅」「野菜曼荼羅」第1回個展東京銀座サエグサ画廊。1989年第1回アトリエ展、奈良・県立女性センター。カレンダー製作「成田山新勝寺の四季」。1992年「花浄土」PIQA・講師。1993年「南南蛮」PIQA・講師。1994年「雪曼荼羅」ニードルワーク日本展。1996年「おりえんたるぽぴー」デンマークキルト展。同年「閃光」「雪の舞」ニードルワーク日本展。1996年「華荘厳」日本のキルト20人展(朝日新聞社主催)、1998年「翔」国際キルト博’98。2001年「瑞象聚」カナダ フレーザー・ヴァレーキルト展。2002年「天道虫曼荼羅」和のキルト100人展。2005年「桜曼荼羅」世界のキルト作家100人展。その他国内外の専門誌に作品掲載多数。

奈良の最古の大和が残ると言われる山の辺の地に生まれ育った郡司さんは、幼い頃から父に連れられ、お寺巡りをして育った。母の故郷の山形に疎開したり、大阪に住んだりしたが、結婚後、奈良に戻ってきた。京都に残る伝統的な日本文化が、洗練され完成された美しさなら、奈良は土地や空気、天空までが遥か大和につながっている、そんな大らかさに包まれる。 「お寺に行くつど門前にある古道具屋をのぞくうち、ぼろぼろの藍や更紗の布に惹かれて集めるようになりました。」郡司さんは大学で油絵を描いていたので、絵の具では到底出ないようなその色合いにまず感動したという。「使い込んで表面が白っぽくなった藍の布も、その奥に濃い青を残していて、年月に晒された風合いの奥深さに、心を奪われました。そんな藍や更紗の古布を、どうするという目的もないままに集めた時期が十数年ありました。」 1983年、大阪で「ニューヨーク現代キルト展」を見る。コンテンポラリーの自由奔放で楽しいアートキルトは、今までのキルトの概念を変えてくれた。これなら、集めてきた古布を使って自分にも作れそうと、創作意欲が目覚めた。 キルトの第一作目は、高野山で見つけた曼荼羅の茜色が、集めた古布の紅花染めに重なったことから発想を得たものだった。この後長らくモチーフになった曼荼羅も、仏様の世界からというより、色彩に惹かれて始めたという。曼荼羅とは色々な仏や菩薩の悟りの世界を円環の中に描いたものだが、いまだにその精神世界を表現する言葉をさがしているという郡司さん。「曼荼羅とは何ぞやというと、私も難しくてわからないのですが、根本的にキルトで表現したいのは、生命なんです。それで、曼荼羅・東寺、高野山、生命樹などに続いて、身近な鳥や野菜、虫なども曼荼羅として制作してきました」 郡司さんのキルトは、基本的には和布を主に使うので、キルティングにフープは使わない。右薬指に革製のシンブルをつけるが、下の左手には何もつけない。針はピーシング用には四条みすや針、キルト用には三条みすや針と使い分けている。 最も試行錯誤するのは、やはりデザインを決定するまでだが、デッサンを学んだ基礎はとても大きな力になった。「ものをスケッチしただけではだめで、そこからいかに肉をそぎ落としてデフォルメしていくかですよね。同じ花をモチーフにしても、そこにどんな表情を持たせるかと考えられるのは、絵を勉強したおかげかなと思います。」 ―本文より一部抜粋― キルトジャパン2007年1月号より
  • 『生命樹』1987年制作 193×146cm
    パッチワークの世界では古くから登場する題材「生命樹」。大地に根を張り、高く、枝を精一杯広げた生命の象徴。明治45年生まれの母が、楽しみながらアップリケを手伝ってくれたという。
  • 『沙羅の門』2000年制作 221×282cm
    お釈迦様が涅槃に入った、その臥床の四方に咲く沙羅双樹。タイ旅行で初めて見て、日本で言う沙羅とはずいぶん違っているのに驚いた記録があるという。「蕾は、大気を吸って膨らみ、花は、光を浴びて開く。幾年月も続き、今年も、蕾は、いくつも膨らみ、明日、花は、大きく、豊かに開く」と郡司さんは語る。
  • かまきり、あめんぼ、てんとうむし、とんぼ…、やさい、くだもの、くさばな、き、うさぎ、さかな、とりなどをモチーフに、いのちの曼荼羅を創り続けている郡司さん。まだ、無限に果てしなく広い宇宙の中を旅しているようで、どこをどう描けるのかと、模索中。
  • 『櫻曼荼羅』2004年制作 206×206cm
    2005年世界のキルト作家100人展出品
    日本の美がテーマのキルト展で、大好きな櫻をモチーフにした曼荼羅。櫻花の漲る命の図絵を、長年かかって描いては、作ってきたものを、一気にまとめた作品。