齋藤泰子さん

齋藤泰子さん 1982年パッチワークを始める。1989年ハーツ&ハンズに転入。キルト日本展ほか、国内外のキルト展にて受賞歴多数。2001年より「ヴォーグキルト塾」講師を務め、後進の指導に当たる。また布のデザイン「じゃぱねすく泰子」を手掛けるなど、多方面で活躍。東京在住。
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いつも模倣に陥らないよう、独自のキルトを目指してきた。自分にそれほどの個性の強さがあったとは思わないが、オリジナリティを一番に制作してきたという自負はある。 齋藤さんの作品作りに大きな影響を与えたのが、アメリカのデボラ・ラーンさんの布との出合いである。毎年行っていたヒューストンのキルトフェスティバルで初めてデボラさんの布を見て、新鮮な衝撃を受けた。 シャープな直線デザインには、どこか日本の着物や手ぬぐいの粋に通じる風通しのよさ、潔さが感じられた。見ようによっては、ポップでモダンでもある。彼女の布を最初の二年間はもっぱら買いためていたが、三年目に使わないと意味がないと思い立ち、ムーブメント(MOVEMENT)のシリーズの第一作が生まれた。それまでハンドで制作していたのが、これを機にミシンに転向することになる。振り返ってみても一作目はミシンキルトの会心の作と、自分でも思っている。 「私自身もこれから、さりげなく、実は深いというような作品を作りたいと思っています」という齋藤さんだが、講師をしている「ヴォーグ キルト塾」の生徒たちにも本音をぶつける授業をしている。 「もっと赤裸々になっていいんじゃないの。良いところも悪いところも全部自分、それが個性の発生源で自分にしかできない作品を、一つでも残そうよ。気がついた時に始めないと、いつやるの」と生徒たちに檄を飛ばすが、それは自分自身への叱咤にほかならない。 そして「たった一度の人生、時間はないのよ」と明るく笑う齋藤さんである。 ―本文より一部抜粋― キルトジャパン2011年1月号より
  • 『MOVEMENT #1』1997年制作 205×195cm
    ミシンキルト第一作。以降続くMOVEMENTシリーズの記念すべき一作目でもある。シャープなラインの布に曲線のパターンを用いて静と動をまとめ上げた。足りない色はマーカーでペイントして仕上げた。第5回キルト日本展銅賞。
  • ミシンキルトに欠かせない、さまざまな糸たち。ミシン糸からラメや刺しゅう糸など色・素材共に豊富にそろえている。
  • デボラ・ラーンさんの布。縞や曲線などきれいにラインを縫うにはミシンが最適と気がつき、ミシンキルトを始めるきっかけを与えてくれた。日本では販売されていないので、オハイオの彼女の工房へ行ったり、インターネットで購入したりして手に入れている。
  • 『MOVEMENT #10(落下する花)』2000年制作 181×190cm
    手すき和紙を初めて取り入れた作品。和紙(白)と和布(黒)を組み合わせると、思いもよらない線が出た。さらにキルティングをしたベースの化繊のアクリルの布が浮き出て見え、新しい発見を得られた作品。